新型コロナウィルスの感染防止策として、専門家会議から提言された「新しい生活様式」は、今ある常識を大きく変える必要性を感じさせる内容でした。結婚式を含む冠婚葬祭についても指摘があり、どのように実践するべきか、関係各所で策定を急いでいることと思います。
国の提言や実践例はかなりあいまいで、その具体化は業界団体などに丸投げされた状況。地域や企業・会場で環境は大きく変わりますから、やはり個々に検討してガイドラインを決めていく必要があります。
結婚式をしてもらうための「安全の担保」
提言を分析して、どこをどのように変える必要があるのか、ユーザー目線からのアフターコロナのウェディング対策としてプロデュース サイトのコラムに書きました。私がお客様と会場を探すならここをチェックする、という内容とも言えます。
このコラムにも書きましたが、お客様に自ら動いてもらわなければ対策は成り立ちません。安全を担保できるように対策を講じることは当然ながら、その対策にお客様が納得できるかが重要です。目に見えないウィルスが相手ですから、それなら安心だと思ってもらえなければ意味がありません。対策をできるだけ具体化し、その理由や結果をスタッフが誰でも説明できるようにしておくことが必要でしょう。
飲食によるおもてなし=披露宴が必須ではなくなる?
既に、リモートウェディング等の新しいサービスもリリースされていますが、それを見て感じるのは、今までのスタイルをどうにかキープしながら実施しよう、というものが多いように感じます。
そもそも、環境が変わっても今までと同じことをするのか、というのが一番の問題です。料理を食べたり、余興をしたり、それをお客様が今後もやろうと思うかは疑問です。
「新しい生活様式」ではほぼ完全否定されているブッフェスタイル。今後はお客様がブッフェのパ―ティを避けるだろうし、私としてもおすすめしようとは思いません。
ちなみに自分がブッフェスタイルの集まりに参加する場合は、食事ができないことを覚悟で出席します。知り合いが多ければ多いほど会話の時間が増えて、食事はほとんどできずに終わるものなので。
そういう面から考えても、ブッフェスタイルを選択する確固たる理由がなければ、別の形を提案します。
コーススタイルの場合は席も固定なので、接触は格段に減らせるでしょうが、スタッフとの接触をいかに減らすかがゲストの安心感のバロメータになりそうです。
コースの品数を減らして接触回数を減らすこともできますが、そうなると披露宴時間も今のような2時間半は必要なくなります。日本で独自に行われてきた、どんな時間でもしっかり料理を提供するパーティはそろそろ考え直してもいいように思います。
それを考えたときに思い浮かんだのが皇室のお茶会のようなパーティ。欧米のように時間帯に合った形式でおもてなしすれば、予算の選択肢も広がりますよね。
そして、最も注目度の高いリモートのウェディング。そうなると料理の提供は必要なのか、と思うのです。
料理をゲストの自宅に送って召し上がっていただくプランも既に登場しているようですが、どんなに美味しい料理を宅配しても準備をするのはゲスト自身。Zoom飲みなどもやってみて、それなりに楽しかったのですが、 正直、自分で準備するのは面倒だなと思ってしまうんですよね。家族なら奥様が準備することになるだろうし……。それにPCやスマホを前にセットすると食事もしにくい。
もてなしには料理以上に至れり尽くせりのサービスこそが大事だというのが自粛やStay Homeによる最大の気づきでした。
さらに、リアル+リモートのハイブリッド型のパーティとなれば、リアルで列席しているゲストには料理が提供され、そのスピードに合わせて会が進行していくわけです。両者の温度差がありすぎて、本来の「宴席」は成立しにくいでしょう。
そう考えると、飲食のおもてなしがなくても新郎新婦の幸せな姿が見られれば十分ではないかと思います。 返礼が必要なら、引菓子や折り詰め( 懐かしい!)的なお礼の品があれば、別に披露宴中に食事をする必要はないと。
極端に言えば、挙式の中継のみでいい、ということになるわけです。飲食がなくなると、ウェディング会場はかなりの収入ダウンになってしまうので、それをどんな形で補うかが課題になりそうですね。
完全にリアルな披露宴を求める人は両家の親族それぞれ、友人それぞれというように小さな宴席を何度かに分けて、それぞれの住むエリアに本人が出向いて行ってもいいでしょう。移動のリスクがかなり少なくなります。それぞれのニーズに合った形で、今以上に様々なスタイルでウェディングが行われるようになるのではないかと思います。
日本の場合は、挙式は近しい人のみ、披露宴は幅広い関係者で、というのが長く続いてきましたが、挙式に幅広い関係者をリモートも含めて招待し、披露宴は限られた身近な人とリアルで、と変化をしていくのかもしれません。欧米はそれが一般的だそうなので、欧米風をコンセプトにしているプランナーは本当の意味での欧米化をここで進めてみては?
「手作り」でできてしまうレベルのままでは持ち込みが加速する
リモートでのウェディングで加速しそうなのが、プロに求められるクオリティの上昇です。
企業イベントなどでは、同じホテルの同じバンケットを使用する場合でも、映像演出などかなり手の込んだ演出を実施していますが、ウェディングの場合はプロに頼んだといってもそこまで手の込んだものにはなっていません。いわばフォーマット化された安価(ユーザーにとっては必ずしも安価ではないけれど)なものを軸にやってきた。 ウェディングは予算が限られる個人イベントのため、それも仕方ないのですが、人によっては自分でもっと手の込んだものを作ったり手配したりできてしまい、それなら自分で気に入ったものを持ち込みたいと言われてしまう。SNSの一般化も相まって持ち込みのニーズは急増しています。
リモートについても単にZoomで中継するだけでは同じことが起こります。演出を際立たせたいとなれば、スイッチャーのような今まではウェディングに必要なかった新しいプロも必要になるし、機材の投資も必要です。リモートもできますと謳っても、それが思うような内容でなければ自分で機材やクルーを持ち込みたいと言われるでしょう。逆に、Zoom等の既存システムで中継できれば十分という場合は、会場の設備は使用しないで自分のスマホでやります、となってしまうはずです。
そういったニーズを許容するのか、対応できるようにするのか。利益構造にも影響しかねない問題なので、パートナーのラインナップも見直しが必要になるでしょう。
見直しをするなら今はいいタイミングのように思います。 クオリティを取るのか、自由度を取るのか、会場のスタンスの二極化は更に進むように思います。
スタッフの感染防止策とプランニング業務のリモート化
機会があって厚労省関係の感染防止のためのマニュアルを見たのですが、顔を触ることで感染リスクは格段に高まるそうです。 目・鼻・口の粘膜からウィルスが体内に入ってしまうためです。また、食事をすると唾液の分泌が増し、その分飛沫も増えるので、食事の際の会話こそリスクが高いのだとか。各所のサービスの方法をコロナ対策版に改めて実践する必要があります。
マスクで接客をしてみると、笑顔であることなどは伝わるものの、やはり口が見えないというのはコミュニケーションしにくいなと感じます。スタッフ同士のちょっとした伝達など、小声やサイレントでやり取りしたい場合に口の動きが見えないと本当に伝わりにくい。お客様からも表情が見えるようにすることは大事なことなのだと実感します。
とはいえ、ウェディングの場で新郎新婦やお客様にマスクをさせるのは現実的に難しい。食事するならほぼ外している状態になるでしょうし、そもそもマスクだけでは目は露出しているので完全防備とは言えません。スタッフを守りつつ、表情も見えるようにするにはフェイスシールドの装着が現実的だと感じます。 かなり暑いらしいのですが……。
また、いろいろな会場のバックヤードに出入りして気になるのは、通常の衛生管理の状況が会場によってかなり差があるという点です。以前仕事で伺っていたホテルでは、IDを所持する者は外部スタッフだとしても従業員用の出入口から必ず出入りさせ、都度手洗いとうがいをさせていました。年に1回は参加必須の講習もあり、受講したかどうかのチェックもしていました。トイレも必ずバックヤードのものを使い、入る際には専用のサンダルに履き替えて、靴底で菌やウィルスを媒介しないようにしていました。
私たちプランナーは発注等で厨房に行く機会もありますが、必ずしも厨房そのものに入る必要はありません。 紙の発注書をもってシェフにサインをもらいに行く、というのは昔は当たり前でしたが、 オーダーは対面でなくてもできること。衛生管理ができていない会場のほうが、フローも煩雑で、誰でも厨房に入れていたりします。そういう仕組みの会場はフローごとすぐに改善するべきでしょう。 オンライン化、ペーパーレス化が一般化している今、そういった直接的な作業で減らせるものはとにかく減らしていくことは作業の効率化にもつながりますし、リモートワークに切り替えなければいけない場合にも対応がしやすくなります。
少々脱線しますが、当方でプロデュース業務の請負をする場合、会場以外の場所で作業がどれだけできるか、つまりリモートワークがどれだけ可能かどうかはフィーの算定において大きな要素です。
事務作業が会場に出向かなければできない環境の場合、移動の手間と時間が工数としてプラスされます。自宅で完結できるものが多いほどお互いにメリットになります。
新型コロナウィルスも外出しないことが一番の感染防止策だとすれば、会場に出向くことが少なければ少ないほどいいわけです。公共交通機関の利用をせず、人との接触を減らせるのは、スタッフを送る側にとっては大きなメリットですし、来訪者が減らせることは会場にとってもリスクヘッジになります。
また、これからはお客様とのリモート打ち合わせも増えていくでしょうが、実はフォーマット等が作業に適さない形のままという会場も多いのです。入口は立派なシステムを使っているのに、その先のフォーマットが古いままという例も。
これは最近しくみを変えた企業の事例ではないので、盲点ということなのでしょうか。施工件数が減っている今こそ着手しておくべき課題でしょう。 仕組みづくりやフォーマットの整備は自身の得意分野でもあるので、また別に記事にしようと思います。
参考資料
新型コロナウイルス 感染症対策専門家会議
「新型コロナウイルス 感染症対策の状況分析・提言」(2020年5月4日)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000629000.pdf